毛細管現象を極大化したランダム異形断面繊維。深い溝が汗を瞬時に吸い上げて拡散。15年経っても型崩れしない安定性。
※ 2011年前後の技術水準と15年の実使用経験に基づく5段階評価
2011年当時、化繊ベースレイヤーの選択肢はそれほど多くなかった。メリノウールが主流を維持し、化繊は「安いが臭う」という評価が一般的だった時代だ。モンベルのジオラインL.W.は、その常識を覆した数少ない製品のひとつだった。ランダム異形断面ポリエステル繊維による毛細管現象の極大化と、銀イオン加工による抗菌処理。この二つの技術を低価格帯で実現したことが、当時の市場におけるこの製品の特異性だ。
通常の円形断面繊維と異なり、糸の一本一本にランダムで深い溝が刻まれた不規則な断面形状を持つ。この形状により繊維表面積が大幅に増加し、毛細管現象による汗の吸い上げ速度が飛躍的に向上する。繊維表面の溝を伝って汗が広範囲に拡散し、蒸発面積を最大化する。結果として、コットンの約5倍、通常ポリエステルの約2倍の速乾性を実現している。
銀イオンを繊維に練り込む方式を採用。表面コーティングではなく繊維内部に銀を保持するため、洗濯による抗菌性能の劣化が極めて緩やかだ。銀イオンは細菌の細胞膜を破壊し、臭いの原因となる雑菌の繁殖を抑制する。15年間使用した個体でも、3日間の連続着用で顕著な臭いが発生しないレベルを維持している。
縫い目を平らに仕上げる縫製技術。通常のオーバーロック縫いと比較して、肌との摩擦面が約60%減少する。ザックのショルダーハーネスやヒップベルトとの干渉部分で特に効果を発揮し、長時間の行動でも擦れによるストレスを最小化している。
室温20℃・湿度50%環境下で、飽和状態からの完全乾燥まで約90分。同条件でのコットンTシャツは約6時間。メリノウール100%製品は約3時間。夜に洗って翌朝には乾いているという実用性は、この速乾性に裏打ちされている。
薄手(ライトウェイト)の宿命として、単体での保温性は限定的だ。気温15℃以下では上に何かを重ねる必要がある。ただしこれは設計上の正解で、ベースレイヤーに保温性を持たせすぎると、行動中のオーバーヒートが避けられなくなる。汗を処理することに特化した設計思想が、レイヤリングシステム全体の効率を支えている。
2011年前後のベースレイヤー市場は、icebreaker(NZ)やSmartWool(US)が牽引するメリノウール全盛期だった。化繊ベースレイヤーは「臭い」「安っぽい」というイメージが強く、高価格帯では存在感が薄かった。モンベルのジオラインは、銀イオン加工でメリノウールの弱点(速乾性の低さ)を攻めつつ、化繊の弱点(臭い)を技術的に克服した。価格もメリノウール製品の約1/3に設定され、コストパフォーマンスの面でも圧倒的だった。
現在のベースレイヤー市場では、メリノウールと化繊のハイブリッド素材が主流になりつつある。Patagonia Capilene Cool MerinoやSmartWool Merino Sport 150などがその例だ。しかしジオラインの設計思想——速乾性に特化し、保温は上のレイヤーに委ねる——は今でも有効で、むしろActive Insulation全盛の現在、ベースレイヤーの負担を軽くする方向性は時代に合っている。素材技術としても、ランダム異形断面繊維は現行モデルでも継続採用されており、基本設計の完成度の高さを示している。
15年間、買い足しながら使い続けた。劣化はごく緩やかで、生地のヘタリは感じるものの機能的な性能低下はほぼない。この価格帯でこの耐久性と機能を両立した製品は、世界的に見ても稀だ。肌着としての地味さゆえに語られることは少ないが、レイヤリングシステムの土台として、最も信頼できる存在であり続けている。
レビュー記事
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