前回の記事で、R2の後継としてHOUDINIのフリースを候補に挙げた。あれから調べるほどに、このブランドの頑固な設計思想が見えてきた。
より少ないものでより多くを。Do more with less。HOUDINIが掲げるこの言葉は、Polartec社のPower Stretch Proという一つの素材から、まったく性格の違うミッドレイヤーを生み出すやり方にそのまま表れている。Power Up HoudiとOutright Houdi。糸の密度とカッティングだけを変えた、血統の近い双子だ。
スペックを横並びにしてみると、両者の境界線は想像以上に鋭い。
Power Stretch Proの構造自体はシンプルだ。内側のポリエステルが熱を蓄えて汗を吸い、外側のナイロンが摩擦と風をいなす。この二重構造を維持したまま、糸をどれだけ密に詰め込むかで性格が決まる。
| 比較項目 | Power Up Houdi | Outright Houdi |
|---|---|---|
| 素材 | Polartec® Power Stretch® Pro™ | Polartec® Power Stretch® Pro™ Light |
| 生地密度 | 250 g/m² | 170–180 g/m² |
| 組成 | ポリエステル52%、ナイロン39%、エラスタン9% | ポリエステル59%、ナイロン33%、エラスタン8% |
| フィット | リラックスフィット | レギュラーフィット |
| 袖口 | クリーン・カフ(穴なし) | 穴なし |
| 性格 | 耐摩耗、防風。守りのフリース | 透湿、軽量。攻めの中間着 |
数字だけ見れば密度の差は80g/m²程度にすぎない。だが、これが体感の重さと熱を根本から変えてしまう。
Power Up Houdiは、あの象徴的なPower Houdiを街でも着られる方向に振り直した進化形だ。
身幅を以前のモデルより約6cm広げているらしい。なるほど、厚手のベースレイヤーの上から羽織っても窮屈さがない。代名詞だったサムホールが廃止され、すっきりした袖口になったのもいい。正直、サムホールはうっとうしいと思っていた。腕時計に引っかかるし、シェルの袖口の中でかさばる。なくなって助かる、というのが本音だ。
250g/m²の厚みは、もはや薄手のソフトシェルに近い。風を通しにくいから、これ一枚で外に出てもしばらくは耐えられる。高い襟を立てれば、マフラーを巻く手間すら省ける。
ただ、この全部入り感が裏目に出る。歩いて心拍数が上がると、途端に熱を溜め込みすぎるのだ。温暖化した日本の冬では、これはしばしばオーバースペックになる。R2やダウンで暖かさを足せるシステムがあるなら、わざわざ中間着の一枚をここまで重く、熱くする必要はない。
対してOutright Houdi。内側はロフトを抑えたマイクロフリース、外側は滑らかなジャージーニット。アウターとの摩擦が驚くほど少ない。シェルの下に潜り込ませたときの、あのスルッと通る感覚。ストレスがなくていい。
170g/m²の軽さ。ポリエステル比率が高い分、汗が抜けるのが速い。ランニングでも春スキーでも、オーバーヒートしにくいのが最大の強みだ。
フィットは、ぴちぴちのPower Houdiでもなく、がばがばのPower Upでもない、ちょうどいいレギュラー。動くための中間着なら、この普通さが一番使い勝手がいい。
パッキングしたときの嵩も小さい。40代になって、荷物の重さが翌日の膝の違和感に直結するようになった。バックパッキングや長期旅行を前提とするなら、この差はもはや死活問題だ。
結局のところ、動かないときに暖かいか、動いても暑くないか。それだけのことだ。
Power Upは、リフトの上や信号待ちの冷たい風をじっと耐えるための設計。高密度のナイロン面が風を遮り、厚いフリース層がデッドエアを溜め込む。冷え性の人や、駅への通勤がメインの人なら、これが正解だろう。
Outrightは、行動中にかいた汗をさっさと外に逃がすことに命をかけている。生地密度が低い分、湿気が抜けていく速度が速い。3シーズンの登山や旅で、一枚を多用途に回し続けるなら、こちらを選ぶ。
どちらもMagical Stretchと称される4方向ストレッチは共通で、動きを妨げられることはない。厚みが違っても、Houdiniらしいあの吸い付くような着心地の根っこは同じだ。
| 用途 | 向いているほう | 理由 |
|---|---|---|
| 厳冬期、アルパイン、街 | Power Up Houdi | とにかく止まったときの保温と防風。鎧としての安心感がある |
| 3シーズン、スポーツ、旅 | Outright Houdi | 動いても蒸れない。軽さとパッキング時の薄さが長期旅行で効く |
やはり、Outright Houdiを買うことにした。
理由がもう一つ。来季、Outright Houdiはラインナップから消えるらしい。廃番。
フーディニは毎シーズン静かにモデルを入れ替える。カタログから消えたら最後、二度と戻らない。R2の廃番に間に合わなかったあのときの教訓が、今も骨身に染みている。欲しいなら、在庫があるうちに無理をしてでも買っておくべきなのだ。
世界一周の旅に持っていくのは、冬を越すための鎧ではない。薄い層を重ねて、状況に合わせて微調整できる柔軟なシステムだ。170g/m²のOutrightをベースに、寒ければシェルを、もっと寒ければダウンを足せばいい。
消える前に手に入れる。自分の旅に合わせる。もう、迷う理由がない。
