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tech / 2026-02-10

パタゴニアR2の進化の遷移|アラフォーが選ぶべき、歴代フリースの研究報告

40代エンジニアが綴る、レギュレーター・フリース R2シリーズの技術的遷移に関する包括的研究報告

パタゴニアR2の進化の遷移|アラフォーが選ぶべき、歴代フリースの研究報告

パタゴニアというブランドを語るとき、どうしても避けて通れない一着がある。1999年に導入されたレギュレーター・システムの核。ミドルレイヤーの黄金律として二十年以上にわたり君臨し続けたR2ジャケットだ。

四十代、いわゆるアラフォー世代の登山者やエンジニアにとって、R2は単なる防寒着を超えた存在だったはずだ。2021年にその歴史が途絶え、テックフェイスというクロスレイヤーへ名実ともに引き継がれた今だからこそ、あのふわふわした毛皮が何を成し遂げ、どこへ向かったのかを改めて解剖しておきたい。これは単なるフリースの変遷記録ではない。冒険を工学しようとした者たちの、執念の足跡である。

01. すべては便座カバーから始まった

フリースの起源は、驚くほど泥臭い。1970年代、イヴォン・シュイナードが求めたのは濡れても重くならず、すぐに乾く素材だった。学生時代に当たり前のように着ていたポリエステル・パイルセーターの原型は、マリンダ・シュイナードがロサンゼルスの市場で見つけたトイレットシートカバー用(便座カバー)の生地だったという。

そこからマサチューセッツ州のモルデン・ミルズ(現在のポーラテック社)との共同開発が始まり、1985年のシンチラを経て、1999年に伝説のレギュレーター・システムが完成する。R1からR4までの階層図を整理すると、R2がいかに戦略的なポジションに配置されていたかが鮮明になる。

シリーズ 役割と特性 代表的な当時の素材
R1 (Flash) ベース兼用・高通気 Polartec Power Dry (Grid)
R2 (Jacket) 保温の核・最高効率 Polartec Thermal Pro (High loft)
R3 (Radiant) 厚手の極寒仕様 Polartec Thermal Pro (High density)
R4 (Windproof) 防風アウター兼用 Polartec Windbloc / P.E.F.

R2がもたらした衝撃は、その暖かさ対重量比にあった。当時の業界標準だったヘビーウェイト・フリースに対し、R2はおよそ半分の重量で同等以上の保温性を叩き出したのだ。

02. スタイル番号に刻まれた進化の地層

R2の歴史をたどるなら、裏側のタグに記されたStyle #(スタイル番号)を見過ごすわけにはいかない。そこには、パタゴニアの設計思想が汎用的な中間着からストイックなテクニカルウェアへと先鋭化していった過程が記録されている。

黎明期:純粋な中間着 (1999 - 2003)

初期のR2は、通称モンキーヘアと呼ばれるポーラテック・サーマル・プロを全面に採用していた。2001年から2002年にかけての一部モデルはアメリカ国内(Made in USA)で生産されており、武骨な造りと高い耐久性から、現在もコレクター間で高値で取引されている。サイドパネルのストレッチ性もまだ初期段階で、純粋な着る毛布としての可能性を追い求めていた時期だ。

完成:2012年モデル (Style #25136) —— 保温性のピーク

多くの愛好家が最もバランスが良かったと振り返るのが、2012年前後のモデルだ。歴代のなかでも最もフリースらしい暖かさのボリューム感を備えた仕様だった。ポーラテック・パワーストレッチをふんだんに使用したサイドパネルは、四方向への高い伸縮性を持ちながら、それ自体にも確かな保温性を備えていた。

サイズ感も現行モデルより半サイズほど大きく、Sサイズでも胸回りにほどよいゆとりがあったため、カジュアルなアウターとしても使いやすかった。山と街をシームレスに行き来できる汎用性が最高潮に達した時期だ。

極致:2019年モデル (Style #25139 / 最終形) —— テクニカルな純度

2019年、フリースとしてのR2はひとつの頂点に到達する。この最終形は、無駄を極限まで削ぎ落としたスリム・フィットを採用しており、2012年モデルとは対照的な方向を向いている。胸回りが著しくタイトになり、2012年モデルでSを着用していた人が2019年モデルではMを選ばざるを得ないケースも少なくなかった。

その設計はきわめてテクニカルで、以下の三つの特徴がそれを端的に示している。

  1. スパイラル・シーム・カフ。2019年モデル最大の特徴は袖口にある。螺旋状に縫い合わされたパネル構造により、腕まくりをしても前腕を締め付けすぎず、手首には完璧にフィットして冷気の侵入を遮断する。
  2. R1素材のサイドパネル。サイドパネルを従来のパワーストレッチからパワーグリッド(R1素材)へ変更することで、脇下の通気性を大幅に向上させた。激しい運動時の汗抜けを最優先した設計判断だ。
  3. ソニック・ステッチ。ジッパー周りの縫製に超音波接着技術(ソニック・ウェルディング)を併用し、嵩張りを抑え、しなやかな着心地を実現している。
比較項目 2012年モデル (#25136) 2019年モデル (#25139)
主要ボディ素材 Polartec Thermal Pro Polartec Thermal Pro
サイドパネル素材 Polartec Power Stretch Polartec Power Grid (R1同等)
袖口の構造 ストレッチ生地切り替え スパイラル・シーム構造
フィット感 レギュラー寄り スリム・フィット
付加技術 標準的な縫製 ソニック・ステッチ併用

03. スタイル番号(Style #)による年代判別ガイド

パタゴニアのR2ジャケットは、細かなアップデートのたびにスタイル番号が更新されてきた。中古市場やアーカイブの調査において、これらの番号は製品の特性を見極めるうえで欠かせない指標となる。主要なスタイル番号の変遷を以下に整理する。

  • Style #25130 / 25131。2000年代中盤のモデル。USA製から海外生産への移行期にあたり、頑丈な造りが際立つ。
  • Style #25136。2012年前後の代表的モデル。パワーストレッチパネル採用で、高い保温性と快適なフィット感を両立。
  • Style #25137。2014年〜2015年モデル。サイドパネルをポーラテック・パワードライに変更し、吸湿速乾性を強化。この時期に隠しサムループ(親指用ループ)が追加された。
  • Style #25138。2010年代後半のモデル。サイドパネルをR1素材へ変更し、袖口にスパイラルシームを導入。よりテクニカルな方向へ舵を切った。
  • Style #25139。R2ジャケットとしての最終形(2019年〜)。フェアトレード・サーティファイド縫製とリサイクル素材比率の向上が盛り込まれた。

04. 裏の伝説 MARSとPCU

マニアックな視点で見逃せないのが、米軍特殊作戦軍向けに開発されたMARS(Military Advanced Regulator System)だろう。とりわけPCU Level 3としてのR2は、民生品には存在しないアルファ・グリーンやコヨーテといった独特の色調を纏っている。パタゴニアのフィッツロイロゴをあえて排し、戦場での生存を最優先したその設計思想は、後の民生用R2における究極の蒸れ逃しにも色濃く反映されている。

05. 遺産を継ぐ者たち、そして現在

2021年、R2はその歴史に幕を下ろした。かつてR2が担っていた通気性のある保温着という役割は、現在ではジグザグ織りのR1 Airや、2024年に登場した保温重視のR1 Thermalといった後継モデルが引き受けている。また、フリースの弱点だった風への脆さと摩耗への弱さを克服したR2 TechFaceは、ソフトシェルとフリースを融合させたクロスレイヤーとして、まったく新しい立ち位置を確立した。

現在のパタゴニアのラインナップにおいて、かつてのR2のようなハイロフト(毛足の長い)フリースは、ロス・ガトスなどライフスタイル寄りの製品に限られ、テクニカルラインからは姿を消している。より専門化され、軽量化された個別の機能への分化が進んだ帰結だ。


どの年代を探すべきか?

これからアーカイブを手に入れようとする方への指針を記しておく。

  • 着る毛布の感触を求めるなら、2010年〜2012年頃のモデル(Style #25136)、あるいは2019年以降のP-6ロゴモデルが候補になる。着心地と機能のバランスに最も優れ、現在の街着としても十分に通用する。
  • 登山のインナーに特化するなら、2017年〜2018年の刺繍ロゴモデル(Style #25138等)を狙いたい。身体に密着してデッドエアを逃さないストイックなカッティングは、厳冬期のインナーとしてきわめて優秀だ。

2009年、R2はいいぞという声があふれていた。今は細分化が進み、あの熱量を耳にすることは少なくなった。けれど、当時を知る人ならあのロマンを覚えているはずだ。子育てを終えたら、またR2と世界を歩きたいと思っている。これがロマンだよ、と。