マイクログリッドバッカーでメンブレン保護。最上位防水性と高透湿性を統合。アルパイン特化の高襟・短丈。
※ 2011年前後の技術水準と15年の実使用経験に基づく5段階評価
2011年前後のClimb Light Jacket(型番NP11103)は、当時の最上位防水透湿素材GORE-TEX Pro Shellを3層構造で搭載したアルパインハードシェル。マイクログリッドバッカーによるメンブレン保護、ビスロン止水ジッパー、C8 DWR撥水加工という、2011年世代の最高技術を詰め込んだ一着だった。現行モデルの軽量志向とは対極にある、ロバストネス(堅牢性)重視の設計が最大の特徴だ。
GORE-TEX Pro Shellは、ゴア社の防水透湿メンブレンの中で最も堅牢な規格。3層(3L)構造は表地・メンブレン・裏地を一体化したもので、2層構造に比べてメンブレンの物理的保護が強化されている。裏地にはマイクログリッドバッカーを採用。極細のグリッド状凹凸が肌との接触面積を最小化し、メンブレンへの摩擦ダメージを軽減する。同時に汗の拡散面を確保し、透湿性能の実効値を高めている。耐水圧は28,000mm以上、透湿性は公称値で約25,000g/m²/24h。
フロントジッパーにはYKK製のビスロン(樹脂歯)タイプの止水ジッパーを採用。金属ジッパーと比較して軽量かつ低温環境での噛み合わせが良好。止水テープがジッパーテープに直接融着されており、毛細管現象による浸水をシャットアウトする。15年間の使用でスライダーの動作に若干の渋りが出始めたが、シリコンスプレーで復旧可能なレベル。
環境規制前の長鎖フッ素化合物(PFOA/PFOS系・C8)による持続性撥水加工。C8は分子鎖が長いため、水だけでなく油性の汚れも弾く。分子構造的にフッ素原子の配列密度が高く、表面エネルギーが極めて低い。結果として、C6やPFCフリー撥水剤と比較して、初期性能と持続性の双方で優位。15年経過後も、新品時の約60-70%程度の撥水性が残存していると推定される。
高い襟(チンガード)はバラクラバとの併用を前提に設計されており、風雪から頸部を完全に保護する。丈はやや短め(ショートレングス)で、クライミングハーネスとの干渉を回避。脇下のベンチレーションジッパーは体温調節に効果的だが、現行モデルのようなストレッチ性は皆無で、激しい動きでは生地の硬さを感じる。
Pro Shellの硬さは現行のGORE-TEX系素材と比較して明らかに高い。動くたびにカサカサとした音が発生し、静かな場所では気になるレベルだ。しかしこの硬さは「風圧に負けない」という性能に直結している。強風環境でウェアがバタつかず、体の周囲に静かな空気層を維持できる。
全シーム部にシーリング(シームテープ)処理が施されている。テープ幅は約19-22mmで、加熱圧着により生地に融着。15年間の使用で剥離が発生していない個体は、保管環境と使用頻度を考慮しても、加工品質が極めて高かったことを示している。一般的にシーリングテープの寿命は5-10年とされており、この耐久性は特筆に値する。
2011年はGORE-TEX Pro Shellが「Most Breathable」と「Most Rugged」に分岐する前の、統一規格時代の末期にあたる。この時期のPro Shellは透湿性と耐久性のバランスが最も取れた世代とされ、多くのアルパインクライマーに支持された。THE NORTH FACEのClimb Lightは、日本のアルパインクライミング文化から生まれた日本企画モデルであり、海外モデルにはない高襟・短丈という独自のカッティングが特徴だった。
現行のClimb Light Jacketは大幅に軽量化され、しなやかさが向上している。GORE-TEXもPro Shellから一般的なGORE-TEX 3Lに変更されたモデルもあり、堅牢性よりも着心地と軽さが重視される傾向にある。Arc'teryxのBeta ARやAlpha SVが示す「硬くて強い」路線は健在だが、全体的な市場トレンドは「軽くて動きやすい」方向に移行した。2011年モデルの「叩きつける雨にも岩擦れにも動じない」ロバスト感は、現行品では得られにくい。
この生地が破れるような状況なら、おそらく自分の身体も無事では済まない。それくらい信頼している。15年の酷使を経てシーリングが剥がれず、ジッパーが壊れず、表地に穴が開いていないという事実が、この製品の設計品質を何よりも雄弁に語っている。
レビュー記事
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