長い毛足でデッドエアを大量保持。防風性なし(シェル必須)。ハイブリッド構造が摩耗と換気を両立。
※ 2011年前後の技術水準と15年の実使用経験に基づく5段階評価
2011年当時のPatagonia R2 Jacketは、フリースジャケットの到達点のひとつだった。Polartec Thermal Pro High Loftの長い毛足がデッドエアを大量に保持し、脇下と側面にはPolartec Power Stretchのストレッチパネルを配置。保温と換気という相反する要求を、ゾーニングによって解決したハイブリッド構造が最大の特徴だ。
毛足の長いパイル構造を持つフリース素材。繊維間に大量のデッドエア(静止空気層)を閉じ込めることで、高い断熱効果を発揮する。繊維密度は約250-280g/m²で、同時期のPolartec Classic 300に匹敵する保温性を、より軽量な構造で実現。パイルの先端が自然にランダムな方向を向くことで、空気の対流を抑制し断熱効率を高めている。
脇下から側面にかけて配置されたストレッチパネルは、Polartec Power Stretchを採用。外側のスムースフェイス(ナイロン)と内側の起毛フリースによる二層構造で、4方向ストレッチにより身体の動きに追従する。伸縮率は約30%で、腕を大きく動かす動作でも突っ張りを感じない。薄手かつ密な編みにより、Thermal Pro部分と比較して通気性が高く、体温上昇時の排熱に寄与する。
前面と背面、肩にはThermal Pro、脇下と側面にはPower Stretch。この二素材構成は「止まっているときは暖かく、動いているときは蒸れない」という理想を、単一の製品で実現するためのものだ。現代のアクティブインサレーションが通気性を全面に優先するのとは異なり、R2は保温性をベースに通気性を部分的に確保するアプローチを取っている。
Thermal Proは構造的に風を通す。風速5m/sの環境下では体感温度が約7-8℃低下する。シェルとの併用が前提の設計であり、R2単体での外出は春秋の無風条件に限られる。これは設計上の欠陥ではなく、インサレーションレイヤーとしての純度を保つための意図的な選択だ。
15年の使用でパイルの毛足は約20%短くなったと推測される。しかし保温性の体感的な低下は軽微で、生地の基本構造が維持されている限り、デッドエア保持能力は大きく損なわれない。ジッパーは初代からYKK Vislon樹脂製で、金属疲労がなく15年後も動作に問題がない。縫製のほつれは脇下のストレッチパネル接合部に若干見られるが、構造的な破綻には至っていない。
2011年前後のフリース市場は、Polartec社の素材体系が業界標準として君臨していた時代。Classic(100/200/300)、Thermal Pro、Power Stretch、Wind Proなど、用途別に細分化された素材ラインナップが存在し、各ブランドがこれらを組み合わせて製品を設計していた。R2のハイブリッド構造は、この素材体系の成熟期に生まれた集大成的な製品と位置づけられる。当時のフリースに求められていたのは「高い保温性」と「タフさ」であり、現代のような「軽量性」や「通気性」が最優先されることは少なかった。
2021年にR2は廃番となった。後継のR1 Air Hoodはオクタ繊維を用いた通気性特化型で、R2 TechFaceはハードフェイスフリースとして再定義された。ハイロフトフリースという製品カテゴリ自体が縮小し、アクティブインサレーション(Patagonia Nano-Air、Arc'teryx Protonなど)に市場を奪われた。しかしR2が持っていた「止まったときの絶対的な暖かさ」は、現行ラインナップのどの製品にも存在しない。効率化の波に飲まれた、ある種のロストテクノロジーだ。
15年間の使用を経て、このジャケットが持つ価値は「技術的優位性」から「代替不可能な信頼性」へと変質した。最新素材には負ける部分もあるが、あの毛足の長いパイルが体を包む感覚は、数値化できない安心感を与えてくれる。人生の半分を共にした道具は、もはやスペックで語る対象ではない。
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