JAL(日本航空)の上級会員制度「JALグローバルクラブ(JGC)」。一度サファイア以上の基準を満たして対象のクレジットカードを作れば、カードを持ち続ける限り一生涯、空港ラウンジの利用や優先搭乗などの特典を受けられる。マイラーや出張族の間では、長年絶大な人気を誇ってきた制度だ。
しかし、JALはJGCの会員数を一度も公式発表したことがない。
空港のサクララウンジが混み合ったり、優先搭乗の列が長くなったりするたびに、「JGC会員は今どれくらいいるのか?」という疑問がネット上で語られてきた。
JALはJGC会員数を公表していない。それでも周辺データを組み合わせると、JGCがどのように成長してきたのかはある程度見えてくる。
JALが公開してきたIR資料、JALカードの会員統計、上級会員誌『AGORA』の公査発行部数、そして過去の関係者取材などを丁寧につなぎ合わせて、JGCという会員組織がどう増えてきたのかを検証してみたい。
扱うデータの基準について
数字を推計する前に、データの出所と信頼度を4つに分けておく。推測と確認済みの事実が混ざってしまわないようにするためだ。
| 区分 | 内容と根拠 | 該当する数字 |
|---|---|---|
| 【確認済み】 | JALの統合報告書、決算資料、媒体資料、ABC公査などの公式一次データ | JALカード総会員数、AGORA公査部数、制度の公式条件 |
| 【報道・公開資料】 | メディアの取材記事や業界関係者のコメントとして流通している情報 | 2018年頃の「JGC 20〜30万人」という数字 |
| 【推定】 | 確認済みデータをベースに、計算モデルから逆算した数字 | 現在のJGC推計人口(30〜35万人)、年間離脱率、新規流入数 |
| 【考察】 | 制度の背景や航空会社の意図、将来予測に関する筆者の解釈 | 会員が増え続ける構造的理由、コロナ禍の影響、世代交代の予測 |
第1章:JGC会員数は公式には非公表
まず、JALが公表している全体の顧客規模から見てみよう。
- 【確認済み】JALマイレージバンク(JMB)会員数:約4,100万人
- 【確認済み】JALカード会員数:約360万〜370万人規模
このように、マイレージ会員全体やカード全体の会員数は公式に開示されている。しかし、そのうちダイヤモンドやサファイアなどの各ステイタス保持者が何人いるのか、そして「JGC会員」が何人いるのかは一切公表されていない。
航空会社が上級会員数を明かさないのには、いくつかの現実的な理由がある。
ひとつは、会員のプレミアム感を保つためだ。あまりに具体的な人数(数十万人など)が表に出ると、ステイタスの希少価値が薄れてしまう心配がある。また、ライバルであるANAのスーパーフライヤーズ(SFC)に対して手の内を隠したいという競争上の思惑もあるだろう。さらに、空港ラウンジの混雑に対して「会員を増やしすぎではないか」という苦情を直接招かないようにする配慮も働いているはずだ。
そのため、JGCの実数を知るには、周辺の公開データから外堀を埋めていく必要がある。
第2章:2018年「20〜30万人」という重要な手掛かり
JGCの人数を語るとき、航空ファンやマイラーの間で長年使われてきた数字がある。「2018年頃、JGC会員はおよそ20万〜30万人」という説だ。
この記事を書くにあたって、この数字の出所を改めて確認してみた。大手新聞や日経各紙、週刊東洋経済、週刊ダイヤモンドなどの航空特集を遡って調べたが、JAL広報やJALカードの担当者が公式に「JGCは20万〜30万人です」と回答した一次ソースの記事は見つからなかった。
どうやらこの数字は、2017〜2018年頃にクレジットカード関係者への取材や、後述する会員誌の発行部数をもとに業界内で推計された数値が、ネットや各種メディアに広まったもののようだ(【報道・公開資料/出典未確認】)。
ただ、公式発表ではないとしても、この「2018年に20万〜30万人(中心値25万人)」という規模感は、ほかの公開データと照らし合わせてみるとかなり納得感がある。
- 2018年のJALカード総会員数:約350万〜370万人
- 上位カード保有層(CLUB-A以上):約88万人(AGORA部数より)
- JGC会員の推計:20万〜30万人
この場合、JGC会員はJALカード全体の約6〜8%、上位カード層の25〜35%を占める計算になる。航空会社のクレジットカードにおける上級会員の比率として、非常に自然なバランスだ。
そこで本稿でも、この**「2018年に約25万人(20万〜30万人)」**を、全体の推移を考えるアンカー(基準値)として置いてみることにする。
第3章:AGORA発行部数から見える2010年代の急成長
JGC会員の規模を推し量るうえで、もっとも頼りになる公式データが、JALカードの上級会員向け雑誌『AGORA(アゴラ)』の発行部数だ。
この雑誌は一般書店では売られておらず、日本ABC協会による公査部数やJALグループの広告媒体資料に部数がはっきりと記録されている。
| 年 | AGORA発行部数 | 増減の様子 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 2013年 | 約73.0万部 | 基準年 | 【確認済み】媒体資料 |
| 2017年 | 832,355部(約83.2万部) | 4年で約10万部増加(+14.0%) | 【確認済み】日本ABC協会(3月) |
| 2018年 | 約88.0万〜88.5万部 | 年5万部ペースの急増 | 【確認済み】JAL媒体資料 |
| 2019年 | 約93.7万部 | ピークに到達 | 【確認済み】JAL媒体資料 |
| 2020年 | 約93.6万部 | コロナ初年もほぼ横ばい維持 | 【確認済み】JAL媒体資料 |
| 2021年 | 886,395部(約88.6万部) | 約5万部減少 | 【確認済み】日本ABC協会(7〜12月平均) |
| 2022年 | 約85.0万部 | 冊子の定期配送終了(Web移行へ) | 【確認済み】媒体資料 |
ここで気をつけておきたいのは、「AGORAの発行部数=JGC会員数」ではないという点だ。
『AGORA』はJGC専用の雑誌ではない。CLUB-Aカード、CLUB-Aゴールドカード、プラチナカードなど、JALの上位カードを持っている会員全員に送られていた。つまり、JGC資格を持っていない通常のCLUB-Aカード会員もこの数字に含まれている。
では、なぜこの数字が大事なのか。理由はシンプルで、JGC会員になるにはCLUB-A以上のカードを持つことが必須条件だからだ。
つまり、AGORAの発行部数は「JGC会員が含まれる最大の母集団」を表している。
グラフを見ると、2013年の約73万部から2019年の約93.7万部まで、わずか6年間で約20.7万部(+28.4%)も急増している。この時期は訪日ブームが起き、先得割引などで飛行機に安く乗れるようになり、ブログやSNSで「JGC修行」のやり方が広く知れ渡った時期とぴったり重なる。上位カード層が毎年3万部以上増え続けた背景には、JGCを目指してカードを発行した人たちの流入が大きく影響していたはずだ。
第4章:コロナでJGCは増えたのか
2020年からのコロナ禍では、航空便が次々に運休し、旅行需要が蒸発した。「さすがにこの時期はJGC会員も大きく減ったのではないか」と思えるかもしれない。
ところが、実際の数字を見てみると、意外な動きをしている。
| 指標 | コロナ前(2019年) | コロナ禍(2021年) | 増減率 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| JALカード総会員数 | 約372万人 | 約360万人 | -3.2%(約12万人減) | 【確認済み】JAL統合報告書 |
| AGORA発行部数 | 約93.7万部 | 約88.6万部 | -5.4%(約5.1万部減) | 【確認済み】ABC公査部数 |
JALカード全体の会員数は、普通カードを中心に約12万人減った。旅行に行く機会がなくなった一般ユーザーが解約したためだ。
しかし、AGORAの部数は2020年時点でも93.6万部とほぼ前年と変わらず、2021年後半に約5万部減った程度にとどまった。国際線の乗客が9割減るという未曾有の事態にあっても、上級カード層はほとんど解約しなかったのだ。
理由は簡単で、**「一度解約したら、もう二度とJGCを取り直せないかもしれない」**からだ。年に1万円ちょっとの年会費なら、乗らない年があっても払い続けて資格をキープしておこう、と考える人が大半だったわけだ。
さらに、コロナ禍ではJAL自身が特別なステータス救済策を打ち出した。
- 【確認済み】2020年:FLY ON ポイント(FOP)2倍措置(2〜7月の全搭乗便)
- 【確認済み】2021〜2022年:事前ボーナスFOPの付与(前年のステータス保持者にまとまったFOPを事前プレゼント)
この救済策によって、通常なら50万円ほどかかる修行が、はるかに少ない搭乗回数や費用で達成できるボーナスタイムが生まれた。移動制限の合間を縫って「今のうちにJGCを取っておこう」と駆け込んだ人たちが一定数いた。
つまり、**「既存会員は解約せずそのまま残り、救済キャンペーンで新規加入者も一定数入ってきた」**ため、コロナ禍でもJGCの人数は減るどころか、高止まりか微増で推移した可能性が高い。
第5章:「入る人はいる、辞める人は少ない」という旧JGC制度の構造
JGC会員が増え続けた最大の理由は、旧制度の仕組みそのものにあった。例えるなら、**「蛇口は大きく開いているのに、排水口が極端に小さい貯水池」**のような構造だったのだ。
通常のステータスは、毎年乗らなければ1年で失効する。だが旧JGC制度はこうだった。
- 【確認済み】入会条件:1年間(1〜12月)に50,000 FOP または 50回搭乗(約40〜50万円)
- 【確認済み】維持条件:CLUB-A以上のカード年会費(約1.1万円〜)を払うだけ。翌年以降に1回も乗らなくても維持できる
- 【確認済み】家族カード:本会員がJGCなら、家族カードを作るだけで家族も乗らずにJGCになれる
年会費1万円ちょっとで、サクララウンジが使えて、手荷物も先に出てくる。年に1回でも帰省や家族旅行で使えば十分元が取れるため、自分からカードを解約する理由はほとんどない。
では、2018年の推計25万人から、現在の推計30万〜35万人に増えるには、毎年何人くらい入会していたのだろうか。
JGC会員の解約は、おもに高齢化や逝去、カード整理などに限られるため、年間の離脱率を1〜3%と仮定して逆算してみた。
| 年間の離脱率 | 現在30万人になる場合 | 現在32.5万人になる場合 | 現在35万人になる場合 |
|---|---|---|---|
| 1.0% / 年(ほとんど辞めない) | 約 9,000人 / 年 | 約 12,200人 / 年 | 約 15,400人 / 年 |
| 2.0% / 年(標準的な想定) | 約 11,700人 / 年 | 約 15,000人 / 年 | 約 18,400人 / 年 |
| 3.0% / 年(高齢化が進んだ場合) | 約 14,400人 / 年 | 約 17,900人 / 年 | 約 21,400人 / 年 |
※【推定】2018年25万人を基準とした幾何級数モデルによる逆算。
離脱率を1.5〜2.5%程度と考えると、毎年およそ1.3万〜1.8万人(本会員+家族会員)が新しく入会していれば、自然と今の30万〜35万人前後に届く。
年間数十万人が国内線・国際線に乗っている中で、年1万人強が新規加入・家族カードを発行するというのは、出張族と修行僧の合計として非常に現実的な規模感だ。
そしてこの仕組みのままであれば、今後も毎年1万人以上がストックされ続け、会員数がどんどん膨らみ続けることは明らかだった。
前編のまとめと後編へ
前編で見えてきた事実を整理すると、次のようになる。
- JGC会員の規模:2018年頃に約25万人、現在は推計30万〜35万人規模まで増えているとみられる。
- コロナ禍でも減らなかった:解約する人が極端に少なく、救済措置もあったため、上級会員の基盤は強固に維持された。
- 旧制度の構造:1年頑張れば生涯維持できる仕組みだったため、入る人は多く、辞める人はほとんどいない状態で会員数が積み上がっていた。
このまま増え続ければ、ラウンジや優先搭乗のサービス品質を維持するのが難しくなるのは時間の問題だった。そこでJALが2024年に打ち出したのが、新制度「Life Status Program」だ。
なぜ入会基準が「1,500 LSP」に変わったのか。そしてJGCの人口は今後どうなっていくのか。